大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和42年(オ)580号 判決

上告人 三宅清

被上告人 国

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について。

論旨は、まず、原審は上告人の本件賠償請求を名誉毀損により蒙つた精神的損害に対する慰藉料請求と解してこれを棄却した点において、国家賠償法一条の解釈適用を誤り、理由不備の違法を犯したものであるという。しかし、記録により窺われる上告人の主張の経過に照らしても、上告人の右請求は、ひつきようするに、上告人を侮辱する虚偽の事実を記載した本件送達報告書の作成および記録への編綴により上告人の蒙つた精神的損害に対する賠償すなわち慰藉料を請求するものにほかならないことが明らかである。そして、原判決によれば、原判示付審判請求事件の一件記録中に編綴されている本件送達報告書のうち、送達書類の表示欄に本来請求人たる地位を有する上告人の肩書として被疑者との記載がなされたのは、右報告書用紙の同欄の記載をして送達事務の補助をした東京地方裁判所執行吏合同役場事務員高橋和行が一般刑事事件送達報告用紙を使用したため該当しない文字の削除と請求人等の記載を遺忘して誤記したものであり、これを受け取り執行吏代理熊谷岳雄および同人から送達報告書を受け取つて記録に編綴した同裁判所係書記官がいずれも不注意によつて右誤記を看過したにすぎないものであつて、右の者らにその行為にあたつて上告人を侮辱する等上告人の権利、利益を害する意思が存したことは認められないし、しかも右表示が誤記であることは一件記録に徴し一見してきわめて明白であり、かつ本件報告書はその性質上多数人の目にふれるものではないというのであり、右認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして肯認するに足りる。右認定判断したところに照らせば、右表示の誤りは客観的に見て上告人の権利、利益を侵害するものと認めるに値しない旨の原審の判断もまた、相当である。しからば、上告人が所論のように右表示の誤りによつて自己の権利、利益を侵害されたとして精神的苦痛を蒙つたとしても、右報告書の作成および記録の編綴が違法性を有し、右執行吏代理らの行為が不法行為にあたるとして精神的損害に対する賠償を求めることは許されないものというべく、これと同趣旨に出た原判決は相当であり、原判決に所論の違法はない。

次に論旨は、本件不法行為確認請求を却下した点において原判決に理由そごの違法があるというが、右請求が確認の利益を欠く旨の原審の判断は、その理由として説示したところに照らして首肯しえ、したがつて、右請求を不適法と判断した原判決に違法はない。

さらに論旨は、原判決は本件送達報告書の破棄訂正を求める請求を司法行政上の処分を求める独立の請求として取り扱わなかつた点において、理由そごの違法を犯したものであるという。しかし、記録によれば、上告人は民法七二三条の規定に基づく名誉回復処分を求める趣旨のもとに右請求をしていることが明らかであり、裁判所に対して司法行政上の処分を求めた趣旨とは認められない(なお、かりに司法行政上の処分を求める趣旨に解されるとしても、そのような請求は許されるものではない。)。そして、原審は、右請求を不法行為を理由とする損害賠償請求と並立する独立の請求として取り扱うとともに、不法行為の存在が認められない以上右請求は理由がないと判断しているのであつて、右判断は是認しうるところである。論旨は、ひつきよう原判決を正解しない結果にすぎず、原判決には所論の違法はない。

その他の論旨は、原判決に影響のない第一審判決の単なる誤記をとらえてこれを非難するものにほかならない。

したがつて、論旨はすべて採用しえない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 奥野健一 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外 色川幸太郎)

上告理由〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例